ラベル

2012年6月1日金曜日

「コト発想」からの価値づくり


谷地弘安『「コト発想」からの価値づくり- 技術者のマーケティング思考』千倉書房、2012。 

技術者を対象にしたマーケティングのテキストである。
近年では、技術者を対象にして経営学の知見を提供するMOT(Management of Technology)が一般に普及してきたようにみえるが、本書では、その中でも特にマーケティングの知見に焦点を当て、議論を進めている。

さらに、いわゆるマーケティングというとマーケティング・ミックスやリサーチが思い浮かびそうだが、本書ではこうした視点とは異なり、コト発想に注目している。そもそも、産業分野を念頭に置く産業財マーケティングでは、マーケティング・ミックスといった考え方はあまりそぐわないとされてきた。こうした議論を踏まえれば、当然、技術者のマーケティングもまた抽象レベルではともかく、具体的には個別的なマーケティングが求められることになる。

随時挿入される事例はとても興味深く、事例を学ぶことを通じて、技術者はもとより他の人々であってもマーケティングを理解することができる。また、潜在ニーズを捉え、コンセプトに仕上げていくプロセスなどは、具体的な方法が示されており、形式的なテキストではなく実用的な視点を備えている。

ネットの時代になり、旧来の企業が直面してきた技術とマーケティングの乖離という状況が消失しつつあるようにもみえる。例えば、アプリ開発者は、市場に直に接したマーケターであり、いまや別途マーケターを置くことは煩雑でしかない。こうした時代にあって、技術者がマーケティングの知見を得ることは極めて有用であるとともに、かつてのマーケターがこれから何をなすべきなのかが問われているようにも思う。