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2018年10月15日月曜日

バートン・マルキール「ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第11版」


バートン・マルキール「ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第11版」日本経済新聞社、2016。

 株投資などによる資産形成の場合、当然のことながら株価の変化が重要になる。普通に株を買うのであれば、株価が上がれば儲かり、下がれば損をする。予測の方法はさまざまに考えられてきたが、本書では、株価はランダム・ウォーカーであることからはじまる。要するに、予測することはできない。

 我々にできることは、だから「全ての株」を買っておくことである。いわゆるインデックス投資やパッシブ投資がそれである。

 マルキールが提案するインデックス投資は、大きく2つの考え方に基づいている。一つは、ポートフォリオマネジメントである。ポートフォリオマネジメントでは、複数の銘柄を組み合わせることで、リターンを維持しながらリスクを分散して低減させることを狙う。資産形成の基本中の基本だが、この際、ではどの銘柄をポートフォリオに組み込むのかが問題になる。この問題は、結局のところ予測へと回帰してしまう。

 それゆえ、もう一つの考え方が重要になる。マルキールが我々に示すのは、超長期に渡って脈々と続いてきた世界全体としての経済成長である。短期的や、中期的には、あるいは局地的には、経済成長は変動する。つまり、ダウや日経平均、TOPIXは変動する。世界恐慌もリーマンショックもあれば、バブル崩壊もある。しかし、もっともっともっとスパンを長く、そして広く世界をみれば、この世界はずっと経済成長を続けてきた。その成長に目を向け、世界の経済成長全体に投資するのである。

 本書では、結果的に、インデックス投資はそのほかの多くのアクティブ投資よりも高い成果をあげてきたことが示される。何かしらの予測を行い、銘柄を絞り込んだ戦略は、超長期的には「全ての株」を買う方法に敵わない。不確実を前提としても、極めてシンプルで強力な方法があることがわかる。

 ただし、このところインデックス投資は日本を含め世界的に浸透し、超巨額の投資額になりつつあるともされる。当然、インデックス投資を前提にして、今度はアクティブ投資が行われることにもなり、それが市場の近年の新たなリスクとなっているという指摘もある。全く新しいリスクに備えつつ、世界の経済成長に目を向けることが重要であろう。

2018年7月31日火曜日

新井紀子「AI vs 教科書が読めない子どもたち」



新井紀子「AI vs 教科書が読めない子どもたち」東洋経済新報社、2018。

 著者は数学者で、数理論理学が専門。2011年から、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の、ディレクターを務めている。大学入試センター試験の高得点を目指して試験問題を研究すると共に、ロボットに多くの情報を与えて、ロボットの知能を育ててきた。その結果を基に更に研究を進め、実に興味深い話題を二つ、この本では紹介している。一つは、AI(人工知能)は、自ら自身を向上させる地点まで達するか、という話。もう一つは、日本の多くの中・高校生は、教科書が読めないという話である。
 前者の話題は、いわゆるシンギュラリティのことだ。結論は、シンギュラリティはないし、東大ロボは東大に合格できないという。それは、AIが、問題文の意味を理解することなく、あくまで計算、確率、統計の数学的方法だけで、情報処理を行うからだ。後者の話題は、その事と関連する。人間は、AIと違って意味を理解出来るのだから、問題文の理解が出来るのか、ということ。センター試験の結果では、ロボットの偏差値は既に50台の後半になっている。ということは、受験生の中では、真ん中以上に位置しているのだ。そこで著者たちは、ロボットに教え込むためのノウハウを基に、読解力を測定するためのテストを作成した。そして、25000人もの小6から高校までの生徒達に、読解力テストを実施したのである。その結果は、一般的にはかなり驚きのものだったろう。
 テストの結果や、関連したアンケートから分かったこととして、以下のことが列挙されている。なお著者達は、答案をすべて自分たちで採点し、その上で分析を行っている。

 ・中学校を卒業する段階で、約3割が、内容理解を伴わない表層的な読解もできない。 ・学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない。
・進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%強程度である。 ・読解能力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高い。
・読解能力値は中学校の間は平均的には向上する。
・読解能力値は高校では向上していない。
・読解能力値と家庭の経済状況には負の相関がある。
・通塾の有無と読解能力値は無関係
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力には相関はない。  
 
 こうした結果は、現場の教員達にとっては、やはりねと思わせるものかもしれない。しかし、教科書が読めているかを調べるための読解力調査というのは、これまでなかった。読解力が、そもそもどんなものか、具体的には把握されていなかったからだろう。著者達のグループは、読解力を具体的に7つの項目に分けて捉えている。先のテストは、それらの項目について、作成された。

①係り受けの解析 主語と述語、修飾語と被修飾語の関係の理解
②照応の解決 指示代名詞が何を指すかの理解
③同義文判定 二つの違った文章を読み比べて、意味が同じであるかどうかを判定
④推論 文の構造を理解した上で、生活体験、常識、様々な知識を動員して文章の意味を理解する力
⑤イメージ同定 文章と図形やグラフを比べて、内容が一致しているかを認識する力
⑥ 具体的同定(辞書) 定義を読んで、それと合致する具体例を認識する力
⑦ 具体的同定(数学) 

 数学の定義に従って、4つの選択肢からあてはまるものを選ぶ。 読解力という、かなり抽象的な力を、このような具体的な項目に分けて捉えている点が、実に興味深い。①から⑦のうち、④、⑤、⑥、⑦は、意味を理解しないAIは、まったく歯が立たないらしい。  
 では、どうしたら読解力は育つのか。それについては、この本には書かれていないし、多分簡単なハウツーなどないだろう。しかし、重要な示唆は書かれている。それは、読解力テストを行った埼玉県戸田市の小・中学校は、1年後に県が行った「学力学習状況調査」の結果、県内の中位から一挙に総合一位になったそうだ。因果関係は分からないが、「教員が、きちんと教科書が読めるためにはどうしたらよいかを研究し実践したからではないか」と著者は推測している。  
 何より読解力が大切だ、その具体的な項目はこんなことだと想定するだけで、多分教員の授業の仕方も変わってくる。この本には、著者達が実施した読解力テストの問題も、いくつか紹介されている。果たして自分が、どれだけ読解力を持っているか、試してみるのもいいと思う。テストを実施した学校では、生徒と共に教員達もテストを受けて、自身の読解力を試しているそうだ。

2018年6月8日金曜日

賃貸か持ち家か、答えは持ち家がレバレッジを効かせた投資か消費かによりそう

<イメージ写真:ぱくたそ>

2008年ぐらいに都内で中古マンションを買いました。ほぼ全額、35年ローンをしまして、返せなくなったらどうしようかなと思ったりもしていました。当時の金利は1%を超えていました。とはいえ、返済額自体は、賃貸での月額よりも少し高くなった程度ではありました。

購入後、すぐにリーマンショックがやってきました。資産価値は2割以上一気に落ちました。あ、これはやってしまったかなと思いました。そしてさらに大きな地震もあり、特段大きな影響はなかったとはいえ、賃貸の方がよかったかもと思うことがありました。

しかし、それからしばらく経ち、資産価値は元に戻り、2014年ごろになると買い値を超えて上昇を始めました。先日引っ越しをしまして、賃貸に出すかどうか迷いましたが、マンションの方は売却してしまいました。買った時よりも価格は少し、上がっていました。税金を考えるとトントンというところではありました。

さて、賃貸か持ち家か、このテーマはウェブ上でも話題のテーマです。賃貸派は、家を買ってしまうことによる固定費のリスクを重く見ます。

「賃貸は家賃を捨てるだけ、持家は将来資産になる」はフェイクだった

持ち家派は、資産価値に加えて、しばしば精神的余裕を加えるようです。

賃貸vs持ち家論争、お金のプロは「持ち家が有利」と断定する理由

そして多くの場合、一長一短であることが語られるとともに、時間軸を長く取ると、どちらもだいたい同じコストになると考えられるようです。多分そうだろうと思います。

賃貸のメリットは「フレキシビリティ」 購入のメリットは「老後の安心」

が、この10年ぐらいの経験で腑に落ちたように感じるのは、「借金をする」ということの重要性でした。これは、すでに語られてきた「投資」の側面に強く関わっているように見えます。

「持ち家か賃貸か」論争に終止符をうつ、シンプルな結論

どのような理由であれ、資産を取得することは「投資」に該当するので、本来なら、投資案件として成功するのかが、すべての評価基準となる。一方、賃貸の場合には純粋な「消費」なので、支出に対して十分な効用が得られているかで判断するのがスジといえるだろう。

「賃貸」VS「持ち家」のくだらない論争はそろそろやめにしよう 「住宅購入」という名の危険な大バクチ

35年もの債務を負って家を買う、というのは投資の観点からみたら「実に危ない投資」と言わざるを得ない。なぜなら、この債務の支払い原資は、債務者(自分)の給料債権のみであり、家という「資産」が稼ぐ収益に基づくものではないからだ。これは通常の不動産投資と決定的に異なる点だ。

上の引用では、「投資」において「35年もの債務」が「実に危ない」とされるわけですが、この点がむしろ逆のように感じたわけです。確かに、借金は、しばしばネガティブな印象を持ちます。実は借金があるなどと言おうものならば、この人大丈夫かな?と思ってしまいがちです。ただその一方で、たとえば企業をみた場合、借金はむしろ資産の一つであり、「投資」の側面を強く持ちます。ソフトバンクが典型的なように、借金をしてそのお金で企業を買収し、そこの利益で借金を返しながらさらに次の借金と買収で企業は大きくなります。ようするに、借金をするというのは、投資資金を得るということであり、運用の可能性を持つということです。個人にとって、借金をして投資を行うということは、考えてみると住宅以外ではあまり選択肢がないように見えます。

住宅でも、こちらはむしろ先の引用で評価されている不動産投資をする方々は、この手の方法を利用します。借金をしてマンションを買う。そのマンションを賃貸に出し、賃貸収入と借金の利息を相殺させる。そしてそのマンションを資産としてさらに借金し(当然先の借金の担保でもあるのでできない場合もありますが)、同様の方法で複数のマンションを経営する不動産王を目指す。

「「資産」が稼ぐ収益」であることを評価される不動産投資ですが、個人である以上、当然ソフトバンクよりもリスクを背負うようにみえます。そして、その手前、むしろ一件だけ自分たちが住むために借金をして、家を買うという場合には、この投資という点について非常にリスクが低いと考えられるのではと思ったわけです。

賃貸の場合、借金が生じることはあまりありません。したがって、一時的にお金を借り、そのお金を投資や運用するという場合には、別途家ではない何かに投資したり運用する必要があります。株、FX(それこそレバレッジができますね)、あるいは自分への投資?、なんでもいいですが、運用という場合にはリスクが別途生じています。これに対して、家を買うという場合には、借金が自宅に向けられます。

自宅の資産価値が下がれば、当然運用は失敗したということになります。借金を投資として増やすことはできなかった。しかしながら、それでも大事かなと思ったのは、現実的にはこれは運用に失敗したというよりは、単に賃貸と同じになったというだけではないかということでした。35年分の賃貸料を前借りして家を買った。借りた分、うまく運用して増やせるかと思ったけれど、増えなかったというわけです。引っ越せないリスクをこれに乗せてもいいですが、後述するように、それは途中から賃貸に回す、不動産投資化させることを念頭に置くことである程度回避できます。さらに、住宅購入の借金は、住宅ローン控除などいくつかの税制面での優遇もあります。その範囲であれば、当然リスクはさらに低くなります。

しばしば指摘される持ち家のメリットである資産の形成は、失敗することもあれば成功することもあると思います。なにより、郊外に家を買うという場合には、そもそも資産の形成にはならないでしょう。それは先の引用にあるとおり「賃貸の場合には純粋な「消費」」と同じように単に消費であり、どんなに借金しようとも、投資としての側面はほとんどないように感じます。その場合には、賃貸と同じ程度の意味か、厳密な計算をすれば、賃貸の方がいいのかもしれません。これに対して、都内であったり駅近くであるなど、資産の形成の可能性が少しでもありうるとするのならば、その場合には投資の側面が少しでも強められるという意味において、持ち家は賃貸よりも勝るように感じます。そしてこの場合には、引っ越せないリスクもまた、途中から賃貸に出すなどの選択肢によってある程度回避できるようになるはずです。

ちなみに、借金をしないで家を買うという選択肢も、人によってはあると思います。この場合は、しかし、持ち家は単に消費となってしまい、賃貸とほとんど変わらないように思います(不動産投資であるというのならばまた別ですが)。お金を不動産に変えてしまうわけですから大きな金額が流動性も下がり、デメリットの方が高くなります。そうであれば、あえて借金をして持ち家を買い、手元のお金は残したままで国債でも買った方がましでしょう(もちろん、より正確には、借金の金利と税金との兼ね合いではありますが)。

なんてことを考えていたわけですが、しかし借金には思いきりがいるものです。この辺りに迷いのない人々は、そのリスクを負う反面、不動産王や起業家としても成功していくのだろうなとも思う今日この頃でした。

2018年4月6日金曜日

ドルコスト平均法は有利か?配当がある場合。

ドルコスト平均法と一括購入
 以前から少し考えるところがあったドルコスト平均法の有用性。特に最近は外国株式などでも定期買付ができるようになっているため、積立という形でドルコスト平均法が利用しやすくなっている。対抗馬として、最初に一括して購入してしまうよりも有利だと言えるのだろうか。

楽天証券の記事によれば、思っているほど有利というわけではないようである。少なくとも言えることは、投資対象が下落局面であれば、ドルコスト平均法の方が有利であるが、逆に投資対象が上昇局面であれば、最初に一括購入した方が有利となる。人は下落局面を恐れる傾向が強いことを考えれば、リスクに備えるという形で、ドルコスト平均法を採用する、という選択肢があることはわかる。


ドルコスト平均法について整理する


配当がない場合
 とはいえ、もう少し考慮したいことがあると思っていた。配当である。先の記事では、配当については考慮していない。しかしながら、現実には、投資額に対して配当が得られるのであるから、最初に一括した場合には、そうでない場合よりも、配当が多く得られるものと想定される。

今、1口100万円、年利5%の株式を考えてみよう。面倒なので単利で計算する。この株式を10口1000万円で10年持つとすれば、1年の配当が1000万円x5%=50万円であるから、50万円x10年で500万円の配当が得られる。

これに対して、この株を毎年1口100万円ずつ購入し、10年後に1000万円になるという場合を考えよう。1年目は100万円に対して5万円、2年目は200万となって配当が10万円となる。10年では、5+10+15+…+50=275万円の配当となる。

株式の価格変動がない場合、一括では500万円、ドルコスト平均法では275万円の配当となり、一括の方が利益が大きいことになる。当然、年利5%を一定だとすれば、株式の上昇局面でも一括の方が有利であることは変わらない。

では、もともとドルコスト平均法が有利であった株式の下落局面はどうなるだろうか。例えば、10年後に株式の価格が半分ぐらいになっている場合を想定しよう。つまり、1口100万円であった株式が、徐々に下がり10年後に55万円になっているという場合である。

まず、最初に一括して購入していた場合、10口1000万円が550万円となり、450万円の損となる。これに対して、ドルコスト平均法の場合、1年目は100万円の購入だが、2年目は95万と5万円ずつ下げていくと、10年目に55万円での購入といった形で金額を計算できる。10口で775万円の購入となる。225万円の損であり、最初に一括するよりも損は小さい。

配当を組み込む
 ここでの問題は配当である。もし、配当が初年の5万円を維持しているのならば(したがって、10年後には年利が上がっている)、一括では500万、ドルコスト平均法では275万であった。差し引きすると、一括は50万円の利益、ドルコスト平均法でも50万円の利益となる。以外にも、利益は同額になる。

年利を一定にする場合、すなわち、株価に対して毎年5%の配当が支払われるという場合、一括では387.5万円、ドルコスト平均法では233.75万円の配当が予想される。この場合には、一括では450-387.5=62.5万円の損であり、ドルコスト平均法では225-233.75であるから7.25万円の得になる。

下落局面において、配当も下がっていくと考えれば、一括よりもドルコスト平均法の方が有利であるようにみえる。その一方で、配当が一定であると想定すると、下落局面のドルコスト平均法の有利は薄れるようにみえる。配当の利率そのものも下落局面では下がると考えれば、ドルコスト平均法の有利はもう少し維持されるだろう。

株価が落ちても配当金額そのものが変わらないというのは特殊な株式のようにもみえるが、株価が落ちて利回りがよくなるという株式はむしろ普通に存在している。こうした株式の場合には、今予算があるというのならば、ドルコスト平均法よりも、一括で買ってしまった方が、下落局面を想定した上でもいいと言えるかもしれない。