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2013年7月1日月曜日

我関わる、ゆえに我あり

我関わる、ゆえに我あり ―地球システム論と文明 (集英社新書)
松井孝典『我関わる、ゆえに我あり-地球システム論と文明』集英社新書、2012

 宇宙や地球の誕生、そしてその後の経過を扱う本は、多分何冊もあるだろう。一方、人類の誕生や、その後の歴史を扱う本は、いくらでもある。しかし、この本のように、宇宙や地球の話と、人類の誕生やその後の歴史を併せて、一貫して説明した本は、余りないのではないか。宇宙や地球の話は自然科学分野の領域であり、一方の人類の歴史は、人文・社会科学の領域だからだ。

 著者は、地球や惑星を研究する自然科学者として、地球の起源や、大気、海あるいは生命の起源といったテーマを研究対象としてきた。本書の初めの部分には、研究の過程で地球はシステムだ、という発見をした経過が書かれている。このシステム的な考えが、自然科学から人文・社会科学に及ぶ一貫した考察を可能にしたのであろう。

 著者によれば、地球システムの構成要素は、大気、海、大陸などの性質の異なる物質圏である。それらに加えて、生物圏が、大陸地殻の表層や海の全体に広がっている。システムを構成するこれらの要素は、相互に関係して相互作用をしている。その関係性は、駆動力により物質やエネルギーが流れることで生まれる。駆動力は大きく二つで、太陽からの放射エネルギーと地球の内部にある熱である。本書を読む場合、本当はこの辺りの説明を、しっかり根本的に理解する必要があると思った。

 さて、この地球システムに、構成要素として人間圏を加えるのが本書のポイントである。この人間圏という概念を思いつくことで、文明を地球システムの構成要素として扱うことが出来たと著者はいう。文明を地球システムの一部として捉えると、農耕牧畜を開始したことや、産業革命により蒸気機関を動力として使うことの意味が、地球システム的に理解されることになる。およそ1万年前、現生人類は農耕牧畜の開始するが、その結果、それまでの生物圏の枠をはみ出して人間圏を作り出すことになった。その後およそ200年前の産業革命は、人間圏の内部に駆動力を持つことことを可能にした。そのために、人間圏は地球システムの枠をはみ出すに至った。

 この辺りは、本書では地球システムの構成要素(大気圏、水圏、地圏、生物圏、人間圏)の包含関係の変化として図示されていて、とても分かりかった。産業革命により、人類が駆動力を人間圏の内側に持ったことは、地球システムの物質循環やエネルギー循環を、自分たちの意のままに変えられることを意味する。エネルギー問題も環境問題も、この視点から見ると、確かにまるで違って見えてくる。(太陽光発電など代替エネルギー利用も、エネルギー問題を根本的に解決するものではない、と著者は書いている。)

 著者のこうした視点や考察を支えるのは、宇宙についての科学的知識の一方で、システム的な思考や、歴史についての知識や仮説である。それは更に、本書のタイトルである「我関わる、ゆえに我あり」に関わってくる。現生人類は、前頭葉の発達により、外部情報を基に内部モデルを作り上げる能力を持った。それが、抽象思考を可能にし、共同幻想を生み、人間圏を作ることが可能とした。その最先端が、科学という営みだ。科学の営みは、ビッグバンなど宇宙の起源、そして地球の起源まで明らかにした。宇宙にその認識の限界を押し広げる現生人類、つまり私たちとは一体何なのか、と著者は問うている。私たちの脳は、今や自らが立つ地球を俯瞰できる視点まで持ったということだろう。

松井教授の東大駒場講義録 ―地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る (集英社新書) 地球システムの崩壊 (新潮選書) 新版 地球進化論 (岩波現代文庫)