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2012年6月3日日曜日

脳を活かす勉強法


茂木健一郎『脳を活かす勉強法 (PHP文庫)』、2007

脳について書かれた本を読むと、何故か気持ちが落ち着いてくる。これは、ユングとか河合隼雄など深層心理学の本を読む時と感じが似ているような気がする。多分、深層心理とか脳とか、自分自身の内側に戻って来る話を読むことで、自身を取り戻す感覚を手にするからではないか、と思う。

さてこの本は、「強化学習」の紹介がメインテーマである。「強化学習」の特色は、まずはひとつのサイクルを回すということだ。何かをやってうまくいく。すると気持ちよかったので、何度も繰り返す。そしたら更に上手になった。誰でも、体験としてそれはあるなと思う。そのサイクルの中途に、<ドーパミンの放出>と、<ある行動と快感の結合>という脳内の変化を加える。すると、途端に自身の内側も含めた問題となる。何かに上達しようと思ったら、頭の中を含めたこのサイクルを回すことが肝心であり、ドーパミンが出るようにするのが鍵なのだ。サイクルを繰り返し回すことで、脳内にシナプスの新たな回路が作られ、脳の神経細胞ニューロンをつなぐシナプス結合が変化する。このようにして、例えば勉強の習慣が作られるのだ、と著者は言う。

ところで、サイクルは簡単には回らない、というのがミソである。何らかの行動をする時、例えば勉強する時、最初にまず大きな負荷を脳にかけなくてはいけない。例としてあげられているのは、タイムプレッシャー、つまり時間制限を自らに課すこと、問題を解くにしても、限られた時間に集中して行う。或いは、一瞬で集中して勉強と一体になることが推奨される。又、不確実なものにチャレンジすることもいい。苦しい刺激が、脳を鍛えることになると言う。そして、自ら課した苦しみを突き抜けるということが、脳に大きな報酬をもたらし、そこで例のサイクルが回り始めるのだ。

著者の茂木健一郎は、脳科学者として、今や多くの著書、講演、そしてツイッターなどで大活躍している。この本は、そうした活躍を支えている彼自身のいわば舞台裏、脳のマネジメントの報告書になっている。自身の脳の特性やコンディションを常にモニターし、脳に適度の負荷をかけながら「強化学習」、つまりドーパミンが放出されるサイクルを回す。茂木のこの本を読むと、多方面への活動や多量の本の執筆も、脳の「強化学習」の一環であることが分かる。

茂木は、これからの時代を乗り切るキーワードは「猛勉強」だと書いている。複雑に展開していく現代社会、そのありとあらゆる場面でベースになっているのは「学問」だと。だからまずは「強化学習」の回路の最初のひと回しを、そして長い人生を通じて「知」を探求する姿勢こそ何より大切、という彼の主張は、自身を振り返るきっかけともなって、とても共感できる。