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2012年6月18日月曜日

14歳からの社会学

14歳からの社会学 ―これからの社会を生きる君に
  宮台真司『14歳からの社会学 ―これからの社会を生きる君に』世界文化社、2008

この本は「14歳からの」となっているが、中・高校生向きの本かというと、ちょっと違う。しかし、優秀な中・高校生向きとは言えるかもしれない。そもそも著者は、自身の現在の立場は、眼前の衆愚政治に対する、卓越的リベラリズムであると言う。そして、明確に次のように主張している。「多くの人が幸せになれるルールを考えることがエリートの幸せだ。大衆は、専門的なことはエリートに任せて、それぞれ幸せになる道を考えればいい。」これからのエリートにとって、何が課題で、どんな資質が必要かも書かれている。
なるほど、と納得する中高校生は、多分少ないだろう。第一に、この本に書かれた、自由と尊厳、生と死、歴史と意思、社会と世界など、彼らがこの本だけで理解するのはとても困難だろう。別の意味で理解が難しいのは、「みんな仲良し」が最早無理だという主張である。この本でも書かれているように、日本では「みんな仲良し」が、学校では特に強調されてきた。この本を危険視する教員も、中には出てくるかもしれない。しかし、確かにこうした議論を理解する中高校生は一定数いて、著者が彼らに向けて書いている(つまりエリート教育?)ということかもしれない。

しかし、この本は限定販売ではなくて、誰でも購入できるし誰でも読むことは出来る。更に、中高生で理解出来る生徒は限られると思うが、大学生や大人になれば、遙かに理解力は増す。14歳でなくても、これからの社会を生きる人なら誰でも、この本は役立つと思う。例えば、社会で生きることは他者と関わる事だ。その際、人が他者に対して自由に振る舞うためには尊厳が必要だ、と著者は言う。尊厳とは、他者から承認されること、すると仮に失敗しても大丈夫と思うことが出来、さらに試行錯誤をすることで成長、それを他者が承認し、という循環が大切だと言う。こうした理解を踏まえて、著者は、最近の若者の就職問題、恋愛・結婚問題について、実に適切なアドバイスをしている。著者の書き方は、自身の豊かな体験を織り込んでいて、説得力がある。

本の構成も、工夫されていると思う。本の冒頭では、社会がここ40年で如何に変わったかを示す写真が二枚示される。1959年と2000年の、東京・中野東駅近くの、同じ場所、同じ時刻、同じ人による撮影だ。その変化の内容・意味が、実に印象的である。一方で、本の最終章は、「SF作品を社会学する」として、SF作家のバラードの考えを軸に、いくつかの作品が紹介されている。安部公房の作品や、「風の谷のナウシカ」も取り上げられる。過去と、それから未来にさしかけられたこの今を如何に生きるか、ということだろう。この本に触発されて、色んな方向に踏み出す人が、中高生に限らずきっといるのだろうと想像する。

希望の国のエクソダス (文春文庫) 壁 (新潮文庫) 風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)