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2012年5月31日木曜日

ごまかし勉強

 
藤澤伸介『ごまかし勉強〈上〉学力低下を助長するシステム』新曜社、2002
藤澤伸介『ごまかし勉強〈下〉ほんものの学力を求めて』新曜社、2002

この本は上下巻からなり、上巻のサブタイトルが「学力低下を助長するシステム」、下巻では「ほんものの学力を求めて」となっている。この本が出た2002年前後には、大学生を始めとする学力低下が大きな話題であった。いわゆる「ゆとり教育」への賛否を軸に多くの議論があったが、この本はそれらとは一線を画した視点を提供している。

著者の藤澤伸介は、教育心理学・認知心理学が専門。まず、認知心理学の知見を背景に、学習の意義、仕組みを説明している。理想的な学習の場合、新たに学んだ知識を、既存の知識に関連させて取り込んで、新たな意味体系を獲得することになる。すると目からウロコの状態でより現実の世界がわかり、学習の手応えを感じることが出来る。そこで更に学習意欲が高まる、という良い循環がはじまるという。逆の悪い循環を、彼は「ごまかし勉強」と名付けて、それが学力低下の大きな原因の一つであると主張している。ごまかし勉強は、近くあるテストで良い点数を取ることだけが目的、そのために、結果主義、暗記主義、物量主義などになりやすい。

この本の内容は、大きく二つに分けられる。一つは、こうしたごまかし勉強が、いつどのように蔓延したのか、という分析。もう一つは、ごまかしでない勉強はどうやればよいか、という処方箋の提示である。

前者に関しては、主に中学生の家庭学習がどう変わったかを辿る。1970年代、1980年代、1990年代と分けて、それぞれの時代の学習法の特色を、学習雑誌、学習参考書、問題集、学校のテスト、塾などの変化と関連させて見ていく。すると、1970年代と1990年代との間に、子供たちの家庭学習が大きく変わったことが分かる。更に、1990年度から1996年度のデータを子供たちから取って、在学年度別中学生の家庭学習の姿勢の推移を辿っている。ごまかし勉強や、そもそも家庭学習をしないという割合が、この僅かな間にも急増していることが分かり、実に興味深い。(三校の大学生から、中学時代の勉強を聴取したようだ。三校の大学は、偏差値で65,55、45とのこと)。

もう一つ、ごまかしでない正統派の勉強を、どのようにやるのかに関しては、下巻で主に説明されている。中高生対象に科目別のアドバイスがあり、この本を自分の勉強の見直しに使うことも出来る。又、ごまかし勉強の副作用が如何に大きいか、も強調されている。ごまかし勉強の蔓延が、本人の学習観に影響して人生に大きなマイナスになるだけでなく、社会的にも深刻な事故やトラブルに繋がりかねないことを指摘して説得力がある。