日本での利上げが始まるにつれ、住宅ローンの金利の上昇が話題になっている。特に中心なのは、固定金利ではなく変動金利の方である。2000年代のマイナス金利下において、変動金利も極めて低い値となり、これにより多くの人々が変動金利の住宅ローンを選択したためである。例えば、住宅金融支援機構の調査によれば、住宅ローン利用者の約7割が変動金利を選択しているとされている。
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住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2023年4月調査)】
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個人向けの住宅ローンを多く提供している住信SBIネット銀行の場合、年0.15%から0.2%程度の上昇がみられるようである。1000万円借りているとすれば、年1万5000円から2万円程度の上昇ということになる。これがさらに30年続けば、合計で45万円から60万円程度の上昇である。
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10月の住宅ローン変動金利上昇、月数千円の返済負担増
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月に直せば数千円程度であるから、仮にもう少し借りているとしても、返済不可能なわけではない。しかし問題は、今後も中長期的には上昇が見込まれるということであろう。1%まで上昇すれば、月にして万単位の上昇となる。危惧を覚える人も多いと思われる。
選択肢の一つは、当然前倒しの返却である。実際、SNS上では繰上げ返済についての言及が見られる。
「金利が上がる前に繰り上げ返済を考えている人が多そうだけど」
「住宅ローンも借金なんだからさっさと返すのが良い」
とはいえ、いつもいうように、仮に繰上げ返済できるのであれば、繰上げ返済しない方が基本的には良い。繰上げ返済の資金を使い、NISAでETFなどを買うのが合理的である。例えば、MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信 (2559)のようないわゆるオルカンであれば、年1.5%の利回りを見込める。これはインカムゲインであり、株価そのものの上昇であるキャピタルゲインは含まない。下落のリスクを気にする人が多いが、全世界の平均株価が下がる時には、どのような形でお金があっても無意味な時期である(そこでさらに利益を上げられるような人は、住宅ローンに拘泥などしないだろう)。
仮に0.15%程度住宅ローンが向上しても、1.5%のETFに余剰資金を投資しているのならば、単にETFのリターンが1.35%に減るに過ぎない。これを繰上げ返済に使ってしまえば、1.5%の利回りを失うことになる。お金を借りて損をするのならば、借りる必要はない。しかし借りて得をするのならば、返す必要はない。
基本的に、住宅ローンの上昇が見られる状況では、銀行預金や株価の配当も上昇することが予想される。結果的に、住宅ローンの上昇分は、投資の利回りで相殺されると考えられる。繰上げ返済能力のある人々は、投資を考える方が良い。
住宅ローンの上昇は、繰上げ返済能力がない場合に大きな問題となる。上昇分は、日々の家計を直撃することになるだろう。この場合には早めに手を打った方がよい。選択肢は、住宅の売却である。現状は幸い都市圏において住宅価格が上昇しており、チャンスだろう。利益が出れば、この利益を投資に回すという新しい選択肢が生まれるとともに、予想される住宅価格の下落後、再購入と今度は住宅ローンの上昇に耐えられる資金力を持つことができるようになる。
住宅ローンの上昇は、二極化を進めるだろう。借金を通じて利益を増やせる人々と、借金を通じて家を失う人々がでるということである。