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2024年12月11日水曜日

金利のある時代



にわかに銀行の金利が上がり始めている。新生銀行は、1年定期で0.8%だという。少し前までは0.1ぐらいであったから、ここにきて一気に上がり始めたことがわかる。paypay銀行は仕組債のような話で2%を謳ってニュースになっていた。これはちょっとどうかと思うが、それでも、総じて銀行金利が上昇傾向にあることは確かだろう。

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円定期預金 冬の金利アップキャンペーン開催のお知らせ
SBI新生銀行

預金金利2%の「預金革命」PayPay銀行 口座開設申し込みが通常の40倍 “金利のある世界”で預金獲得競争へ
Yahoo!ニューズ
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バブルが崩壊して以降、日本では長らく低金利、超低金利の時代が続いた。銀行に預けてもお金は増えない。だからと言ってお金の使い道がないことに大きな問題があったわけだが、銀行でもお金が増える時代がやってくるのかもしれない。1980年代ぐらいの金利にはなりそうである。

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「金利のある世界」へ変わる日本。生活への影響は ? コスト増に備える方法も
大和ネクスト銀行
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例えば、paypayよろしく、本当に銀行金利が2%程度になった場合にはどうするのがいいだろう。インカムゲインを想定するETFの場合、しばしば利回りは2%程度であろう。元金変動のリスクを考えれば、銀行預金の方が安全ということになってしまう。

もちろん、そこまで銀行金利が上がるときには、株式はもっと利回りが良くなるはずだと予想することもできる。それは自然な姿だが、この30年の流れからすると、銀行、債券、株式がそれほどうまく連動して変動するとは限らないようにも見える。銀行の金利が上がれば、基本的には、多くの人々は昔のように銀行に預けるようになるだろう。だからと言って、株式の利回りが上がる(それはつまり、株価が下がったり、配当が上がる)とは限らない。お金が余っている今日、あるいは市場のお金の量を積極的に操作できる今日、三者関係がそれほど密接であるようには思えないのである。

あくまで重要なことは、ポートフォリオである。新しい選択肢の一つとして、久しぶりに銀行預金が加わるということだろう。リターンがほぼゼロだったこれまで、銀行という選択肢はほとんど意味を持っていなかった。だが、銀行にも金利がつくようになり始めた。基本戦略自体には変更はないが、銀行、債券、株式の組み合わせでリスクを最小化し、リターンを最大化する必要がある。

2024年10月4日金曜日

住宅ローン変動金利の上昇について

日本での利上げが始まるにつれ、住宅ローンの金利の上昇が話題になっている。特に中心なのは、固定金利ではなく変動金利の方である。2000年代のマイナス金利下において、変動金利も極めて低い値となり、これにより多くの人々が変動金利の住宅ローンを選択したためである。例えば、住宅金融支援機構の調査によれば、住宅ローン利用者の約7割が変動金利を選択しているとされている。



住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2023年4月調査)】



個人向けの住宅ローンを多く提供している住信SBIネット銀行の場合、年0.15%から0.2%程度の上昇がみられるようである。1000万円借りているとすれば、年1万5000円から2万円程度の上昇ということになる。これがさらに30年続けば、合計で45万円から60万円程度の上昇である。



10月の住宅ローン変動金利上昇、月数千円の返済負担増



月に直せば数千円程度であるから、仮にもう少し借りているとしても、返済不可能なわけではない。しかし問題は、今後も中長期的には上昇が見込まれるということであろう。1%まで上昇すれば、月にして万単位の上昇となる。危惧を覚える人も多いと思われる。

選択肢の一つは、当然前倒しの返却である。実際、SNS上では繰上げ返済についての言及が見られる。

「金利が上がる前に繰り上げ返済を考えている人が多そうだけど」

「住宅ローンも借金なんだからさっさと返すのが良い」

とはいえ、いつもいうように、仮に繰上げ返済できるのであれば、繰上げ返済しない方が基本的には良い。繰上げ返済の資金を使い、NISAでETFなどを買うのが合理的である。例えば、MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信 (2559)のようないわゆるオルカンであれば、年1.5%の利回りを見込める。これはインカムゲインであり、株価そのものの上昇であるキャピタルゲインは含まない。下落のリスクを気にする人が多いが、全世界の平均株価が下がる時には、どのような形でお金があっても無意味な時期である(そこでさらに利益を上げられるような人は、住宅ローンに拘泥などしないだろう)。

仮に0.15%程度住宅ローンが向上しても、1.5%のETFに余剰資金を投資しているのならば、単にETFのリターンが1.35%に減るに過ぎない。これを繰上げ返済に使ってしまえば、1.5%の利回りを失うことになる。お金を借りて損をするのならば、借りる必要はない。しかし借りて得をするのならば、返す必要はない。

基本的に、住宅ローンの上昇が見られる状況では、銀行預金や株価の配当も上昇することが予想される。結果的に、住宅ローンの上昇分は、投資の利回りで相殺されると考えられる。繰上げ返済能力のある人々は、投資を考える方が良い。

住宅ローンの上昇は、繰上げ返済能力がない場合に大きな問題となる。上昇分は、日々の家計を直撃することになるだろう。この場合には早めに手を打った方がよい。選択肢は、住宅の売却である。現状は幸い都市圏において住宅価格が上昇しており、チャンスだろう。利益が出れば、この利益を投資に回すという新しい選択肢が生まれるとともに、予想される住宅価格の下落後、再購入と今度は住宅ローンの上昇に耐えられる資金力を持つことができるようになる。

住宅ローンの上昇は、二極化を進めるだろう。借金を通じて利益を増やせる人々と、借金を通じて家を失う人々がでるということである。

2024年3月19日火曜日

松里公孝「ウクライナ動乱―ソ連解体から露ウ戦争まで」2023ちくま新書


 ロシアとウクライナの戦争が始まって、もう2年が過ぎた。テレビや新聞の議論は、民主主義国のウクライナを専制国家のロシアが侵略したので同じ価値観のアメリカ、日本、NATOはウクライナに味方して援助する、という構図が前提となっている。ロシアが勝ったら、国際社会は、無法状態になりかねないとも言われている。 

 しかし、本当にそうだろうか。実は、私には上の議論が、50年前の記憶と重なる。50年前、アメリカは南ベトナムを手助けして、北ベトナムを攻撃していた。資本主義国のアメリカが南ベトナムを助け、共産主義の北ベトナムと戦っていた。南ベトナムが敗けたら、共産主義が次々に広まってしまう、と言われた。この考えは、ドミノ理論と呼ばれた。しかし、本当にそうだったか。ベトナムでは、実に多くの人が殺されたが、なぜアメリカがベトナムで戦かわねばならなかったのかは、今となってはよく分からない。

  さて露ウ戦争が、ベトナム戦争と性格が異なるのは明らかだ。としても、敵味方に分かれて、絶対に敗けられないと息巻くのは、今も昔も同じだ。この本は、多くのことを教えてくれている。それは、敵味方の認識構図とは無縁な、より堅固な視座を持っているからだ。著者の研究方法の特色は、「さまざまな登場人物の見解を聞き、紹介するということ」であるという。著者はロシア語やウクライナ語が堪能であり、特に専門のウクライナについては露ウ戦争前、現地の政治家など関係者に毎年インタビューを積み重ねてきた。問題のマイダン革命の影響についても、著者は、次のように書いている。

「私は『構造がアクターの行動を規定する』という演繹的なアプローチでは、エスカレーションの政治はうまく説明できず、むしろそれは出来事の連鎖として素直に説明したほうが良いと思う」。ソ連崩壊後の各共和国の帰趨、特にウクライナのマイダン革命後の政治混乱、更に露ウ戦争への道は、まさにエスカレーションの経過として、この本からよく理解できるように思う。多くの情報を踏まえて、貴重な洞察が示されるが、私には以下の点が印象に残った。

 ①ソ連解体の理由の一つは、最大共和国であったロシアが、解体を事実上促進したことだ。資源を独占して西側に直接輸出した方が、ロシアは儲かると・・。しかし、資本主義への復帰が豊かな経済をもたらすという期待は、結局見当はずれだった。他の旧ソ連国も同じだ。

 ②2008年以降の旧ソ連圏における戦争や紛争(カラバフ、南オセチアなど)は、すべてソ連末期の分離紛争の再燃という性格を帯びている。また、2014年以降のウクライナ危機の源泉は、クリミアとドンバスの分離紛争である。ただし、両地間の分離主義は一様ではない。

 ③分離紛争には、三種類の国家が関わる。まず分離政体(例えばドンバスの2共和国)。次に分離政体が以前所属していた国家=親国家(例えばウクライナ)。最後に外から分離政体を応援しているパトロン国家(例えばロシア)。解決法は、親国家の連邦化、親国家の再征服、パトロン国家による親国家の破壊、その他、領土分割やパトロン国家の分離政体の承認がある。ウクライナ動乱でも、まさにそれらが現在も試みられている。

 ④著者によれば、そもそも分離紛争は、国連信託統治のような非主権国家的な解決法が大規模に採用されるようにならない限り、解決が難しい。分離紛争を「解決」して、恒久的な平和を目指そうなどとすると、かえって戦争を誘発する。

  ③や④から、改めて国家とは何かと考えさせられる。本来、人々は、だれも平和で豊かな生活を望む。国家観念を前提せずに、殺し合いに至らぬ道を工夫する知恵が、何より必要だ。