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2012年11月14日水曜日

性愛空間の文化史

性愛空間の文化史
金益見『性愛空間の文化史』ミネルヴァ書房、2012

いわゆる「ラブホテル」についての歴史研究である。連れ込み茶屋や宿、それからモーテルの時代を経て、1973年の「目黒エンペラー」なるラブホテルの登場を前後して、この用語が一般に定着していったとある。

ある用語が一般に定着するとともに、その意味が時間の中で変容していくことを捉えることは、文化史として重要なことであろう。僕たちが日常的に用いている何気ない単語の存在が、時には、僕たちの社会や文化の深層をえぐる手がかりになることもある。

ラブホテルという用語への注目はそれ故に興味深いが、今回の本の中でどこまで僕たちに驚きを与えてくれてるいるかは定かではない。本書は、正直に言うと資料集に近い印象を受ける。後は読み手に任せたということなのかもしれないが、そういう本は可能だろうか。もちろん、歴史研究として史料を残すことは一つの価値があるが、その解釈やつなぎに期待しては駄目だろうか。

直感的に言えば、ラブホテルは、ハレとケの間であったり、表社会と裏社会の間に位置するように思われる。それほどラブホテルという用語に注目するということ自体が、すでに魅力的なアイデアだったはずだ。その期待の高さゆえにということもあろう、この本では社会の深層に踏み込めたという印象を持つことができない。

後いいわすれたが、最後についているラブホテルの年表は詳細で興味深い。まさに歴史的資料としての価値があると思う。次の研究は、ここから始めることができる。

ラブホテル進化論 (文春新書) 美人論 (朝日文芸文庫) つくられた桂離宮神話 (講談社学術文庫)