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2012年7月22日日曜日

グラフで見ると全部わかる日本の深層



高橋洋一『グラフで見ると全部わかる日本国の深層』講談社、2012

消費税増税法案が、先月衆議院を通過した。衆議院478議席のうち賛成は363、4分の3以上の圧倒的多数で法案は通過したことになる。法案は参議院に送付され、間もなくやはり圧倒的多数の賛成により成立するだろう。一方、新聞やテレビなどマスコミも、こぞって消費税増税に賛意を表明しており、反対する声は余り聞こえない。

新聞読者からすると、こんな状況で法案に反対するのは、余程のことだとまずは思う。反対するのは、個人的事情で現実認識に問題がある人たちか、或いは、反対により何らかのメリットを期待する人たちではないか。そんな人たちは信頼出来ないので、ベターという点でマスコミの報じる多数派に加わる。多分、日本では、こんな具合に政治は動いてきたのでは、と想像する。しかし今日では、マスコミ以外に情報は様々に入手出来る。ツイッターや、ネット上の様々な情報が、別のコンテクストを提供してくれる。テレビと新聞以外にも、別ルートで情報を入手出来るということは、実に大きな変化だと思う。例えば、この本の著者の主張は、ネット上で簡単にアクセス出来る。

この本は、消費税増税も含めて、25のテーマに付き、44のグラフを用いて、一般に常識とされたことを次々と論破していく。この、グラフを使うという点が、面白いところだ。というのは、上述の通り、マスコミの提供する常識に反する言動は、多くの人にとってまずは受け入れにくい。しかし、グラフで数値の推移や、数値相互の相関を提示されたら、否定するにしてもそれらについて考えざるをえない。多分、こうして自分で考えてみる、ということがとても大切なのだと思う。

例えば、この本では高速道路上での4月末のバス事故のことが取り上げられている。マスコミでは、規制緩和によるバス会社同志の競争激化が運転手の無理な運転に繋がった、と報じられた。しかし、この本の三つのグラフを見ると、その指摘が的外れであることが分かる。規制緩和の後、確かに貸切バスの新規参入は増加した。ところが、グラフによれば、高速バスの事故率は、むしろ低下傾向である。著者は、今回の事故は、規制緩和よりも、国土交通省などの道路管理に問題があったのでは、と指摘している。

消費増税に関連しては、ギリシャとの比較、公債依存度、債務残高、財政再建など、多くのトピックスについてグラフが提示されている。消費税増税は、決して議論の余地のない常識ではない。まずは、それらについて読み解くことから話が始まるのではないか。ムードだけで話が進むのは、そろそろ終わりのような気もする。

更にグラフについて言うと、その読み取り方は中学校段階の数学や理科・社会で誰も学んでいる。しかし、変数間の相関とか推移は、実はかなり理解が難しい。グラフは上述の通り強力な思考ツールなので、是非活用能力を身につけたいと思う。

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