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2012年7月10日火曜日

カラスなぜ遊ぶ

カラス なぜ遊ぶ (集英社新書)
杉田昭栄『カラス なぜ遊ぶ (集英社新書)』、2004

犬やネコが群れをなす、ということは余り無い。しかし、カラスは何百羽も群れて、空を飛び回る。私の住む地域では、そんなことが、ここ数年、主に秋から冬にかけて続いた。数百羽のカラスが、交差点で直交する電線上にずらりと並んでいたり、突然一斉に飛び立ったりする。これは、ちょっと異様な雰囲気である。ちょうど、ヒッチコックの有名な映画「鳥」を想い出させるところがあり、怖さすら感じる。

この本を読む時、こうした集団行動の理由が書かれているか、と期待した。しかし、そのことは直接取り上げられていない。ただ、通読してみて、集団行動の理由は推測がついた。彼らは、集団で遊んでいた可能性が高い。実際、カラスはよく遊ぶのだ。

まず、カラスの遊びが色々と取り上げられている。電線にぶら下がって大車輪する。仲間と追いかけっこや物取りゲームをする。ゴルフボールを、屋根に転がして遊ぶ。雪の上に転がって、自分の身体をプリントする。雪の坂を、背中を使って滑る。仲間と綱引きをする。物を隠す。通行人に水を掛ける。線路に置き石をする。などなど。

著者は、動物形態学、神経解剖学が専門であり、宇都宮大学農学部教授である。近年、カラスの脳研究を行っており、この本ではカラスの行動を、脳解剖の結果と関連させて説明している。カラスが遊ぶのは、一口に言えば賢いからだ。カラスの脳は、他の鳥と比べて大きい。著者は、脳の重さと体重の関係や、大脳と脳幹の比率、又解剖して神経細胞の多さや密度・構造などを確認する。カラスは、スケールによっては鳥というより犬やネコ、ほ乳類に近い特色を示す。

更に、カラスの優れた能力が、いくつも取り上げられている。カラスは、目の構造から色覚が優れており、多くの色(少なくとも14色以上)を識別、綺麗な世界を見ているらしい。しかも、目には二つのレンズを備えて、遠近両用に切り替えが可能である。そして、人物識別の実験によれば、人の顔写真を見分ける能力を持つ。この実験では、15枚の顔写真から、正解の1枚を選択したという。記憶力もあり、一旦覚えると、3週間は記憶を保持する。ある人が、カラスに与える食べ物にアルコールをかけたところ、彼の車が糞の集中攻撃を受けた、というエピソードもあった。

すぐそこにいるカラスが、実は地上を歩く人間の個体識別能力も持ち、その車まで分かるという話は、驚きである。今後は集団で群れ飛ぶ時だけでなく、頭上の一羽であっても、カラスの下を歩く人間としては自分が見られていることを意識したい。


カラス狂騒曲―行動と生態の不思議 新しい発生生物学―生命の神秘が集約された「発生」の驚異 (ブルーバックス) 生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)