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2012年5月29日火曜日

商店街はなぜ滅びるのか


新雅史『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)』、2012

衰退が叫ばれて久しい商店街についての歴史的研究である。いくつか改めて商店街を学ぶことができる。

第一に、商店街は伝統的な存在ではなく、むしろ、百貨店の成長に対抗すべく中小零細商が政府とともに作り上げてきた一つの理念であったということである。本書では「横の百貨店」についての当時の資料が様々に取り上げられている。このさい、単なる繁華街における商店街だけではなく、いわゆる街に根ざした商店街という考え方も取り込まれていったという点は、なるほど、商店街の今日を考える上で重要な意味を持つ。

第二に、製造業との関係性やスーパーの台頭という時代変遷の中で、やがて商店街は自立性を失っていく。社会全体として、流通革命論や外圧が用いられることによって、商店街や中小零細商の衰退は日本経済にとっては望ましいともみなされるようになった。その一方で、逆にそうした滅びゆく商店街や中小零細商を救う名目で、大店法の強化や財政投融資が導入されることにより、いよいよ彼等は問題解決を目指すという力を失なった。

第三に、中小零細商はやがてコンビニに代表される近代システムの形をとって装いを新たにするようになる。だがそれは、商店街の復活を意味するというよりは、近代流通システムによる中小零細商の取り込み(あるいは、相互の妥協なのかもしれない)であり、商店街という理念そのものは取り残されたままになっている。

個別の議論自体は、本書でも指摘されているようによく知られている内容である。商店街や中小零細商がどうして今も存続しているのか、という点についての研究はたくさん進められてきたからである。制度の問題、市場スラックの問題、流通経路の問題、自己雇用の問題、それから家族や継承の問題、いずれも相互に批判しながら議論が深められてきた。逆に滅びる理由を問うても、あまり意味自体は変わらないだろう。

むしろ、今、商店街を問い直したということこそが、本書の重要な点であろう。震災を通じて、商店街の役割、あるいは小売業も含めた地域企業の役割が見直される可能性があるからである。今ならば、商店街を救い出すことができるのかもしれない(それは、今の商店街とは違うものであるかもしれないが)。遡ってその出自を問い直し、別のシナリオを描き直すことが大事なのだろう。