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2012年5月9日水曜日

驚きの介護民俗学


六車由実『驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)』医学書院、2012

以前の「神、人を喰う―人身御供の民俗学」が学術的で厳密な感じだったのに比べると、こちらは雑誌連載の内容を読みやすく束ねた内容になっている。介護施設という一見すると排除され、何も残されていない対象に目をあて、むしろそこから我々が失いかけている何かを拾いだそうとしている。

興味深いと思ったのは、「聞き書き」という作業を、一方で介護のための方法論と見なしつつ、同時に、民俗学の使命として捉えようとしているように見える点である。本文中では、前者は介護の方法論である回想法との接続や批判へとつながっている。後者は、研究や記述を行う人々の意義の再確認であり、その活動自体が、介護(という一つの現実)にもつながっていることを示している。

もちろん、ところどころで述べられているように、「聞き書き」が絶対的に介護にとって有効な方法というわけでもない。記述についても、わざわざかぎ括弧がつけられているように、「事実」との相違を指摘されることもある。けれどもそれは回想法や、それからもっと物理的な治療とて同じである。

「聞き書き」の両面戦略は、可能性であるとともに揺らぎの原因となる。学術的に読み込むには難しいかもしれない。最後に上野千鶴子などの議論との接続が試みられており、ここから次の一手が始まるのだろうと感じた。ひとまず、この本については、読みやすさを重視し、一つ一つの語りに驚くことが大事なのだろう。我々の知らない世界は、もっともっと存在している。