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2014年5月23日金曜日

資本主義の終焉と歴史の危機

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)
水野和夫「資本主義の終焉と歴史の危機」集英社新書、2014

日本の経済が、この20年、低迷を続けていることは誰も知っている。例えば、1990年代半ばから現在までおよそ20年間の、日本とアメリカの株価推移を比較してみる。すると、日本の株価が3割下落しているのに、アメリカは3倍以上になっていることが分かる。その凄まじいまでの落差は、一体何故なのか。その原因を多くの人が探っていて、様々な報告がなされている。その中で、この本は日本経済の低迷について独特の主張をしており、今や多くの人の注目を集めているようだ。著者の答えは、ここ20年の日米の格差は、アメリカが電子・金融空間を作り上げたから、というものだ。それは必然的にバブルを生み、その都度貧富の差を拡大させる。だから結論として、日本がアメリカの後を追う必要は全く無い、ということになる。この本における彼の主張を、項目に整理してみよう。

① 日本の長期金利は、既に10年以上2%を下回り、最近では1%以下である。2%以下の低金利がこんなに続くのは、16世紀のイタリア・ジェノバ以来で、歴史的なものだ。 しかも日本だけでなく、今や2%程度の低金利が、先進国では普通になって来ている。
② 2%以下の長期金利が10年も続けば、社会・経済が激変せざるを得ない。なぜなら、その水準では、資本主義生産で利潤を得ることが出来ないからだ。
③ 資本主義の行き詰まりは、空間の制約と資源の高騰に直面した1970年代に、既に始まっている。アメリカは、困難を乗り越えるために、電子・金融空間を作った。
④ 資本の自由化が本格化した1995年以後、アメリカが世界中から多額の資本を集めて投資を行う、電子・金融空間が完成した。その結果、厖大なマネーが作り出された。
⑤ アメリカの電子・金融空間は、数年に一度バブルを生み、その崩壊を繰り返すしかな い。その都度、政府が公的資金でシステムを救済するが、一方で中間層を没落させる。
⑥ グローバリズムにより、発展途上国の開発が進む。しかし、発展途上国が先進国になる可能性はない。むしろ今後は、先進国も発展途上国も、貧富の差が大きくなる。
⑦ 企業の利潤が雇用者に分配される比率は、1990年代末から急低下していて、中間層の没落が始まっている。このままでは、民主主義の維持が難しくなる可能性がある。

  これらの主張は、書中では、合わせて16のグラフや図表を基に展開されている。例えば、上述の①に関しては、「図1 経済覇権国の金利の推移」が用いられる。これは、14世紀から今日までの数百年間の、覇権国の金利の推移が折れ線グラフで描かれていて、とても興味深い。それだけ見ていても、取り出せるポイントや期間は、いくらでもありそうに思 える。又、⑦の利潤の雇用者への分配率低下については、「図9 名目GDPと雇用者報 酬の関係」を示す折れ線グラフで明確に示されるが、1999年以降の分配率急落が実に印象的だ。更に議論の中で、歴史学者のブローデルやウォーラーステインの所説が参照されて、資本主義の起源やその本質と終焉、ヨーロッパ近代の危機などが取り上げられており、かなり複雑な話となっている。
 
 この本の主張は正しいか、という問題の立て方は、余り意味がないように思う。著者は、長年、証券会社でエコノミストとして活躍された方である。私は、この本の他にも、他のマーケットに関わる方々の異なる主張も読んでみた。その結果、事態について様々な解釈 が可能だということが、よく分かった。日本経済の停滞は、実はマーケットの世界を更に深いものにしているのかもしれない。事態は困難だが、思考するエネルギーを感じた。

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