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2013年2月8日金曜日

アメリカは日本経済の復活を知っている

アメリカは日本経済の復活を知っている
浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』講談社、2013

 著者は、イェール大学名誉教授・東大名誉教授の経済学者。現在は、安倍内閣の内閣官房参与という立場で、安倍内閣の経済政策に関わっている。その安倍内閣の経済政策については、今やアベノミクスと呼ばれて、広く話題になっている。昨秋からの、為替の円安、日本市場の株価の上昇は、この政策への期待が大きいためと言われている。そこで、アベノミクスの指南役として著者が注目され、雑誌やテレビなどにも登場する機会がしばしばあるようだ。

 著者の経済政策についての考えは、この本にも要点が示されている。それは、為替の円安誘導と日本経済のデフレ脱却のためには、インフレターゲットの設定、それに向けた日銀による金融緩和が有効である、というものだ。これについては、今やあちこちで賛否両論の議論が行われている。だからこの本を読んで、この政策そのものに関しては、特に新味はなかった。しかし、これに関連した話が実はこの本の中心であって、そちらは興味深かった。

 興味深かった話とは、まとめると次のようである。
 
①著者と日本政府とのこれまでの関係。政府の経済政策に関わるのは、著者は今回が初 めてではないこと。著者は、2001年から2003年まで、内閣府経済社会総合研究所所長 を務めている。そして、当時から、今と同じ政策を主張して来たのだという。しかし、 今回まで、その主張が大幅に取り入れられることはなかったようだ。

②著者は、日銀の姿勢を、厳しく批判している。その日銀の白河総裁は、著者の東大時 代の教え子に当たるという。それも、単に講義に出席していた、といった関係ではなく て、どうやら在学時も、又卒業後も、そして①の所長時代以後も、公私にわたる関わり があったようである。何しろ、序章のタイトルは、「教え子、日銀総裁への公開書簡」 となっている。学生時代、白河氏は、将来を嘱望される優秀な学生であったらしい。

③著者は、アメリカでの生活が長く、アメリカの経済学者たちの知己も多い。著者は最 近、日本経済の停滞に関して、アメリカの多くの経済学者にインタビューしたらしい。 その結果は、著者の考えを後押しするものがほとんどだったようだ。つまり、アメリカ では、金融政策で物価上昇率を左右でき、為替も変化するということが、経済学の常識 になっている、というのである。

 私自身は、経済に関する知識は乏しいので、政策の善し悪しの判断は出来ない。しかし、①から③までの話から、次のことは分かった。つまり日本銀行の政策は、アメリカなど世界の動向とはかなり異なったものだということ。そしてそれは、リーマンショック以後のことだけでないらしい。更に日本銀行としては、著者のような主張を断固退けて、従来の路線を堅持したいようなのである。現在の日本では、新聞や雑誌、ネットなどで見ると、著者の主張に対する反発や否定的な議論が多いという印象を持つ。つまり、日本銀行の従来路線が妥当だ、という見解が多数派を占めるということだ。

 国民生活に関わる重大な政策なので、もっと早くからこうした議論が、幅広く行われるとよかったのにと思う。ともあれ、安倍内閣の発足と共に議論が広く湧き上がり、この本など関連した本が話題になっていることは、よいことではないか。


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