ラベル

2012年12月20日木曜日

静かなる大恐慌

静かなる大恐慌 (集英社新書)
柴山桂太『静かなる大恐慌 (集英社新書)』、2012

先日Twitterで紹介いただいた一冊。
グローバリゼーションが必然ではないことを歴史的に指摘しつつ、遠からず予想される脱グローバリゼーションへの対応を説いている。確かに、グローバリゼーションは必然でもなければ、必須というわけでもない。その背後には、例えば、アメリカナイゼーションやら、マクドナルド化やら、対抗すべき問題はいろいろある。企業にしても、グローバル化しなければならない、というとき、そこにどういう必然性があるのかは一考に値するはずである。

教えてもらいどんなものかと思っていたのは、ロドリックが指摘するという、グローバル化、国家主権、民主政治のトリレンマであった。これらの3つは、2つまでしか選択できないという。グローバル化は、格差の問題を孕むため、国家主権か世界連邦(これは民主政治らしい)による管理を必要とする。グローバル化をやめれば、国家主権のもとで民主政治も実現できる。

著者によれば、現実問題としてグローバル化をやめることは難しいが、三つ目のグローバル化への抑制なり対応が有用である。さもなくば、遠からず脱グローバリゼーションが強まり、ブロック経済やら戦争やらといった昔と同じ問題が発生しかねない。カール・ポランニーの大転換が温故知新となる(いつのまにか新訳が)。

基本的にその通りだと思うが、難しいのは、例えば昨今のTPPを考えた場合である。正直、それがすでに脱グローバリゼーションとしての危険な運動になっているのか、それとも、その一歩手前のソフトランディングを狙う選択肢なのかはわからないような気もする。

それからあと一つ思い出したのは、去年あたりに読んだ池上x岩井のユーロ問題だった。旧来、国別に通貨があった頃は、景気が悪くなれば個別に紙幣を大量発行し、本書でも述べられているように自国安を作り出して輸出で稼いで利益を取り戻すことができた。しかし、ユーロの統一はこうした国家別の通貨戦略を無効にし、むしろ、自国の産業を淘汰してしまう力として作用した。この辺りの話とも、整合的なのかなと感じる。


2012年 池上彰×岩井克人 新春対談 お金の正体


国としては厄介な話だが、問題の焦点ははっきりしている。グローバリゼーションと、国内の格差のリスクをうまく調整するのである。ベストな解はタイミングによって変わりそうだが、どちらにせよ、グローバル化一辺倒ではうまくいかないということはいえる(同様に、保護政策一辺倒でもうまくいかないだろうが)。

p.s.
改めてトリレンマを考えてみたのだが、民主政治の位置づけが今ひとつよくわからない。本書でも、「議会制民主主義」のことと言い換えられている。このあたりは原書を見た方がいいのかもしれないが、邦訳を待っても良いだろうか。

現代社会論のキーワード―冷戦後世界を読み解く 成長なき時代の「国家」を構想する ―経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン― [新訳]大転換