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2015年1月7日水曜日

ジャパンクライシス


橋爪大三郎・小林慶一郎「ジャパンクライシス―ハイパーインフレがこの国を滅ぼす―」 筑摩書房、2014

 この本の議論の中心は、国の実態を知ることがごく少数の人だけでよいのか、という問題だと思う。実際、多くの富裕層が、今や海外に資産を移し始めているという。又、財務省や経産省などの官僚の中には、ハイパーインフレに期待する人もいるようだ。かなり危険な状態に日本が立ち至っていることは、今や間違いない。

 国債など国の負債が1000兆円を超えていることは、国民の間で、かなり知られているだろう。この金額はGDPの220%にあたるが、米国ではこれが60%、ドイツでは80%、イタリアでは120%であり、日本の突出が目立つ。問題は、国債が毎年増え続けていることだ。償還分が120兆円あり、予算の不足分とを合わせて毎年、合計160兆円発行している。政府の昨年の長期推計では、現状のままであれば、債務残高の対GDP 比は上昇を続けて2050年には500%を超える。しかし、300%を超えると国内の預貯金の総額を国債発行額が超えてしまい、海外の投資家の買い支えが不可欠となる。その場合は、国債の暴落は避けられない。そうなると、国債を多くかかえた銀行や生保が立ちゆかず、金融危機に陥る。又、日銀が国債を買い支えても、通貨供給量の増加によりハイパーインフレに陥る危険性が高い。そして、その時期は、10~20年後とみられる。 

 同じ政府の長期推計では、何らかの財政改革をして、2060年までに債務残高をGDP比100%にまで低下させるのに、毎年70兆円の財政収支の改善が必要だとされた。これは、消費税30%分にあたる。つまり、消費税をあと30%上げれば、50年後にはかなり財政が改善されるということだ。健全財政とされる対GDP比60%にするには、消費税35%をおよそ100年続ける必要があるという。財政健全化という言葉は、政治家やマスコミがよく用いる言葉だが、本気で取り組むなら消費税35%でも100年かかるということ。逆に言えば、それ以外の方法は、目先の方便に過ぎないということだろう。

 この本では、日本の財政について基本事項を確認しつつ、アベノミクスへの批判も併せて行っている。第一の矢である金融緩和については、財政問題を解決するために必要な時間かせぎという点では、望ましいと評価する。第二の矢は、財政出動により景気回復を目指すのだが、長期的には財政悪化になる。第三の矢は、成長戦略だが、財政が目に見えて改善するには、経済成長率が10%くらい上昇する必要があり、極めて難しい。アベノミクス全体に対しては、長期的な展望がないこと、政策の順番が間違っていることが指摘される。財政再建が進まないと、景気回復が難しい、というのだ。2010年にはアメリカで、公的債務が対GDP比90%を超えると経済成長率が大幅に下がるとする論文が出て、大きな話題になったらしい。まして日本では、対GDP比200%を超えているのだ。

 この本の認識は、消費税を35%に上げて100年掛けて財政を健全化させるか、それともある時突然ハイパーインフレに陥るかという選択が、今や我々に刻々と迫っているというものだ。ハイパーインフレになれば、国民の金融資産は失われるが、国の負債は殆ど帳消しになる。しかも、短期で決着するので、それに期待する人々もいるようだ。しかし、その場合のシミュレーションを見ると、余りに副作用が大きすぎる。それよりも、消費税35%の方がよいではないか、というのがこの本の主張である。消費税35%となっても、消費水準は1.4%落ち込むだけ、という試算もあるらしい。国民も、深刻な事態や切り抜ける道筋をきちんと説明されれば、理解が進むだろうというのが著者たちの考えである。