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2012年8月10日金曜日

日本2.0 思想地図β vol.3

日本2.0 思想地図β vol.3
東浩紀『日本2.0 思想地図β vol.3』ゲンロン、2012

「新日本国憲法ゲンロン草案」が、この思想雑誌に掲載された。早速、テレビやネットで取り上げられて、話題を集めている。本誌には、草案以外に詳しい解説と討議記録などが収められている。編集長の東浩紀が中心になって、5人の委員の共同作業により作成されたようだ。

その憲法草案だが、基本的な考え方から全体的な構成、具体的な条文まで、実によく考えられていると感心した。中身はとても面白く、読んでいるとワクワクする。内容が斬新なせいもあるが、何より日本の歴史や現状を踏まえ、将来を展望する一貫した理念があるためではないか。

草案は、「前文」の他、「政体」、「権利」の二部分から成っている。まず、「前文」で理念が語られる。次いで、第一部は「政体」である。ここでは、「元首」「統治」「行政」「立法」「司法」の仕組みと働きが規定される。第二部は「権利」である。ここでは、「原則」「自由」「生存」「財産」「保障」が規定されている。

前文では、最初に前提として、日本国がどんな国かが述べられる。日本国は、単一の国土と単一の文化に閉じ込められるものではないという。次いで、日本国は国民と住民のあいだの協力により運営され更新される精神的共同体であることが宣言される。そこから、4つの理念「公正な国」「平和な国」「繁栄する国」「開かれた国」が示される。

国民と住民という二つの概念を用いて、日本国を定義するのは、歴史を踏まえると納得がいく。国民とは、多様な歴史と伝統を共有する主権者たる人々だ。一方で住民は、日本の国土を生活の場として共有する人々だ。思えば、縄文と弥生以来、この列島では既存の住民と新来者とが、緊張関係のもとに生活しつつ、独自の文化を作り上げることを繰り返してきた。東は、このことを「フローとしての日本とストックとしての日本の両立」という理念だと述べている。それが、草案全体を貫く二元性の原理となる。国民と住民だけでなく、更に天皇と総理、国と基礎自治体、国民院と住民院などへと二元性が広げられる。

こうした斬新な構想の一方で、憲法の意味については、原理がしっかり押さえられている。例えば、この憲法草案では、第二部では「権利」が規定される。しかし、草案の中に義務は書かれていない。なぜなら、憲法は国民および住民からの国家への制約であり、その中に国民および住民の義務を記述することは原理的にみて場違いだから、とされる。

日本人は、もう何十年も、憲法や日本国について語ることが自由には出来なかった。こうして、全く新しい憲法草案が書かれたことに、今後の可能性と希望を感じる。更に、理念レベルで新たな展望があるのか、今後の論争も楽しみだ。

思想地図β vol.1 思想地図β vol.2 震災以後