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2012年7月8日日曜日

赤を見る

赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由
ニコラス・ハンフリー『赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由』紀伊國屋書店、2006

先に読んだ『ソウルダスト』の意味が今ひとつ分からないので、先行するこちらを読んでみた。ソウルダストに引き続き、よくわからない。あとがきでみると、講演をまとめたとある。そのせいかもしれないが、話が冗長で知識が後半にわたるため、どうも全体像が捉えられない。

とはいえ、ソウルダストよりもこちらの方が基礎的であることは感じる。主張そのものは、僕たちは外界からの刺激を感覚として直接捉えている訳ではなく、感覚を知覚をつうじて捉えるという一段複雑な仕組みを有しているという一点につきる。これが意識である。

大事なことは、この手の話が、形而上学的な考察の元にではなく、脳科学などの研究蓄積を元に提示されているということだろう。おそらく、重要な意味をもっているのは、チンパンジー・ヘレンの研究を通じた盲視である。人間の事例も紹介されているが、目が見えない盲視の人たちも、色や形を知覚できるのだという。この場合、外界からの直接刺激は感覚としてないにも関わらず、知覚として色や形が得られるということになる。

この辺りの実験がどのくらい妥当なのかについては本書からだけではわからない。けれども、本書で述べられているように、感覚と知覚のプロセスが決して因果関係にある訳ではないのだとすれば、こうした推論は不可能ではない。一方で外界があり、一方でそれを認識する主体の世界があるという2元論的世界観は、それ自体があくまで仮説的だからである。

『ソウルダスト』ではあまり議論されていなかったように感じたが、こうした意識の成立は、時間の問題に強く関わっているようだ。客観的に流れていく時間ではなく、自分たちの意識とともに成立する時間に注目することで、新しい議論が可能になるという。やはりもう少し読み進める必要がありそうだ。

ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想 ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫) 時間と自己 (中公新書 (674))