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2012年7月4日水曜日

永遠のゼロ

永遠の0 (講談社文庫) 
百田尚樹『永遠の0 (講談社文庫)』2009=2006

この小説を読んだ後、次に鹿児島に行くことがあったら、是非とも大隅半島の鹿屋を訪ねたいと思った。かつての海軍鹿屋基地は、現在は自衛隊の基地になっているそうだ。「自衛隊の基地に隣接して資料館があり、かつての海軍航空隊に関する資料が展示されていた。初めて本物の零戦を見た。思っていたよりもずっと小さい飛行機だった。」この本の主人公が、姉と一緒に祖父の足跡を追って、鹿屋を訪れたくだりである。鹿屋基地は、太平洋戦争末期には、沖縄に向かう特攻攻撃の出撃地であった。

主人公は、司法試験の準備をする26歳の青年。最近、母方の祖母が亡くなった。その際に祖父から、実は祖母には前夫がいた、という話を聞かされる。亡くなった祖母は、戦時中、短い間だが結婚していた。その時の子供が、主人公の母なのだ。相手の男性は、特攻隊員として戦争末期に戦死した、ということだ。詳しいことは分からない、ということだった。母も又、自分の本当の父については、祖母からほとんど聞いていなかった。

主人公は、ジャーナリスト志望の姉に誘われて、戦死した祖父の調査を始める。戦友会の情報を頼りに、戦死した祖父の情報を求めて各地を訪れる。多くの人たちに会い、祖父の姿が少しずつ次第に浮かび上がってくる。祖父の宮部久蔵は、戦闘機乗りとして天才的な技量を持ち、支那事変や太平洋戦争に参加した。彼は、戦時中に結婚した妻と娘を愛し、必ず生きて帰ると決意して、周囲にもそれを公言した。当時、そんなことを公言するのは大変危険だし、当然批判されるべき行動であった。しかし終戦直前、主人公と同じ26歳の時、宮部は特攻隊員として沖縄周辺の海で戦死した。

真珠湾、空母赤城、ラバウル、ミッドウェー、空母瑞鶴、筑波の練習航空隊、そして最後に鹿屋基地。生き残るのが至難の戦場で、宮部は注意に注意を重ね、秘技を駆使して最後まで生き残った。主人公は、祖父の旧同僚たちから、祖父の言動や、それについての彼らの様々な思いを聞くことになる。その宮部が、最後に特攻に出撃するのが、鹿屋基地である。そのくだりは、まさに小説の醍醐味であろうか、本当に感動的だ。

文庫本の解説は、先ほど亡くなられた児玉清さんが書いている。児玉さんは宮部について、「心を洗われるような、素晴らしい人間に出会うことが出来た」と言う。日常生活では難しいそうした体験が、小説の醍醐味であると。なるほど私自身も、この本では特攻隊について、これまでの認識をすっかり新たに出来て嬉しい。沖縄の海は、これまでとまるで違って見えるし、鹿屋にもぜひ一度訪問したい、と願っている。

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