ラベル

2012年7月3日火曜日

ソウルダスト

ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想
ニコラス・ハンフリー『ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想』、2012

意識についての哲学書といったところだろうか。ただ、その限りでは、それほど新しい話が書かれているわけではないように感じる。

本書によれば、意識とは、「自分の頭のなかで自ら上演するマジックショー」である。ようするに、意識なるものは実在的ななにかでもなければ、客体に直接つながる主体(一般的な意味での主-客)というわけでもない。外部刺激が勝手に世界化され、その世界化された空間で暮らす存在が意識、という感じである。

本書でも述べられているように、われ思うゆえにわれありというとき、われわれは基本的に超越論的に形成されているのであって、そこには何よりも志向性を先に見出さねばならない。誰かの詩の目覚めについての引用がされていたが、私は結果であって、決して原因や主体ではない。es denkt。

こうした意識がいかにして形成されたのかについて、本書では進化論的な考察が加えられている。これは哲学的な論考を超えて興味深いところだが、正直本当かどうかわからない。むしろ著者によるほかの著作『内なる目』や『赤を見る』がそうした実証にあたるようだ。

よくわからないが、もともと著者が評価されたのは、哲学的には古くから言われてきた議論について、何らかの形で実証的な根拠を与えたところにあるのではないだろうか。この実証的な根拠が本書には欠けているがゆえに、逆に、いったい何の本なのかよくわからなくなっているように感じる。改めて他の本を当たってみよう。

赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由喪失と獲得―進化心理学から見た心と体意識とはなにか―「私」を生成する脳 (ちくま新書)