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2012年7月30日月曜日

日本人の情報行動2010

日本人の情報行動2010
橋元良明編『日本人の情報行動2010』東京大学出版会、2011

東京大学が中心となり、5年毎に行われている日本人のメディア利用についての調査報告書である。タイトルの通り、本書は2010年に行われた調査結果がまとめられている。 テレビや新聞といったメディア全般の利用動向が調査されているが、やはり注目すべきはインターネットと携帯電話についての利用動向であろう。5年毎とはいえ、徐々にデータが貯まってきており時系列の分析も可能になっている。もちろん、メディア間の比較もできる。

いくつか興味深いデータがあった。一つは、メディアの信頼性に関わる項目である。テレビはこの10年でほぼ変化していない一方で、インターネットの信頼性は向上し、それから新聞が年々減少している。データ上は、信頼できる情報を得るためのメディアを一つだけ選択するという設問のため解釈には注意が必要だろうが、新聞をかつて選択していた人々がネットに移行したとみることができそうである。同様のデータで、趣味娯楽のためにもっとも用いられるメディアとしては、2010年にはついにネットがトップに立っている。

インターネットのメディアとしての信頼性は、さらに別途5点尺度でも調査されている。この手法では年齢や学歴を説明変数とした回帰分析も行われており、年齢が若いほど、それから世帯収入が高いほど、どうやらネット情報を信頼できると認識していることがみえてくる。学歴も影響を与えていると考えられることから、情報を読み解く能力といったものが信頼性に関わるのかもしれない(だがそうだとすれば、信頼性と学歴や世帯収入は、U字を描くようにも思われる。すなわち、子供は無条件にネットを含め情報を信頼し、中間的な人々は一方的に懐疑的にみるようになり、能力が向上するにつれ、その信頼性は再び高まる)。

残念なこととして、後半の考察が前半の調査結果とあまり対応していない。先のネットの情報の信頼性などは、最終章で議論されるメディアリテラシーの問題に直接関わっているはずだ。76世代と86世代で、パソコン・ケータイについての「読む」「書く」の利用方法が逆転するという。とても興味深い指摘だが、今回の調査では何ら証明されていない。

定点調査ということで新しい仮説を立てにくいのかもしれないが、本としてまとめている以上は不十分でもしっかりと関連づけて欲しい。もしそれができないのならば、こういった貴重なデータは無償公開したらどうだろうかと思う。

日本人の情報行動〈2005〉メディアと日本人――変わりゆく日常 (岩波新書)ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代