2012年6月17日日曜日
働かないアリには意義がある
長谷川英祐『働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)』、2010。
アリを中心とした生物の社会を考察することを通じて、人間の社会のありかたを考えた一冊である。アリが女王アリを中心として働きアリや兵隊アリのような階層をつくりあげることはよく知られているが、その中での複雑な仕組みはあまり知られていない。とても興味深い。
面白かったのは、例えば次の下り。兵隊アリは、通常日常業務はせずに働きアリに任せている。しかし、働きアリの数が一定数を割り込むと、働きアリの代わりに日常業務をし始めるという。その仕組みを支えるのは、兵隊アリは働きアリに出会うとその場所を離れるというシンプルな性質である。通常は仕事場にたくさんの働きアリがいる。兵隊アリは自身の性質により、仕事場に入れないというわけである。単純な性質だが、それで社会がうまく回る。分業の仕組みが成り立つし、もしもの緊急対応もできる。
こうしたアリの社会と僕たちの社会がどの程度同じものであると見なせるのか、という点については、まだまだわからないところも多いという。けれども、人間だけが特別な社会を有しているというわけでもなさそうだ。アリの社会にも働かないアリはいるし、裏切るアリもいる。それぞれに意味があり、社会を支え、遺伝子を伝える役割を担う。
にしても、どうして生物は遺伝子を伝えねばならないのだろうか。僕たちは遺伝子の器にすぎないとして、では、当の遺伝子とはいったい何なのだろう。彼らは何をなそうとする存在なのか。それこそが神であるといってしまいそうにもなるけれど、もう少し別の説明も考えてみたい。