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2012年6月10日日曜日

選択・責任・連帯の教育改革


堤清二・橋爪大三郎編『選択・責任・連帯の教育改革 完全版―学校の機能回復をめざして』勁草書房、1999

中学や高校では、勉強が理解出来ず、又意欲も持てない生徒がかなり居る。しかし、学校では皆が同じように、朝から晩まで教室の机に座らされている。こうした事態を解消しようと、ここ20年くらい様々な教育改革が行われてきた。今や変化の兆しはそこここにあるが、しかし事態が大きく変わったわけではない。

この本は、橋爪大三郎など社会学者たちによる、体系的で長期展望に立った教育改革案である。1999年に刊行されて既に10年以上経つが、問題がそのまま存続していることもあり、内容的には今も斬新である。三つの点で、この改革案は画期的であると私は思う。まずは、教育改革の主体(当事者)を子供たちや親に置いた点である。次は、教育の機能を時代認識を踏まえて明確に捉えている点、最後は、かかる教育の機能を遂行するために、教育制度を体系的・具体的に構想した点が挙げられる。

第一について言えば、まずは、ごく当たり前の要求を学校教育の場に取り戻そう、というのが最初の一歩だと言う。教育の主体は、子供と親。どんな教育を受けるかは、教育主体が自由な判断で選択する。教師は、彼らの選択にこたえてプロの教育者としての役割を果たす。学校を核として、親・子供・教師が連帯の関係を築き上げる。これは、政府が主導する改革とは全く異なる視点であり、具体的な制度構想の骨格となっている。

第二の教育の機能については、時代認識を踏まえて、基本目標が明示されている。社会性の形成、知/技能の形成、表現力の形成の3点である。そして、それらの目標を達成する際の条件を、4点にまとめている。可能性を与える、ニーズを満たす、学校を開く、個人の尊厳を守る、の4点である。それらはいずれも関連していて、整合的である。

第三として、そこから、具体的な制度改革が構想される。保護者に学校選択権を与える、学習指導要領廃止、文科省・教育委員会の機能変更、校長に予算・カリキュラム編成や人事など大幅な権限、校長の上に選挙により選ばれた学校理事会を設置、教員の異動の自由確保、高校入試・大学入試の廃止、高校卒業検定実施、大学の定員廃止、学生のキックアウト制、大学設置基準の廃止、奨学ローンの拡充、などなど、それらはすべて話が繋がっていて、体系だっている。

制度改革としては、余りにドラスティックであり、一見すると夢物語のように見えるかもしれない。しかし、ここ20年の教育政策の迷走振りを振り返り、改めて制度変更を構想する際の、明らかに指針となる提言であり貴重である。実際には、この提言の一部が少しずつ実現されつつある、というのが現状だろう。