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2012年6月2日土曜日

モウリーニョの流儀


片野道郎『モウリーニョの流儀』河出書房新社、2009。 

世界的なサッカー監督として知られるジョゼ・モウリーニョのインテル1年目を纏めた一冊である。 言うまでもなく、インテルもまたセリエAの名門チームであるが、モウリーニョは1年目にしてリーグ優勝・スクデットを獲得している。 

スポーツ監督は、ビジネスという観点から見れば社長などトップマネジメントと重なる側面がある。 実際、モウリーニョを初めとして、多くの名監督はそのリーダーシップ論が語られる。 一般化して言えば、リーダーは明確なビジョンを持ち、明確なルールを持ち(部下との関係を明確にし)、チームの顔として外交にもあたる必要がある、というところだろうか。これにもう一つ、しかし君子豹変すも大事だと言えば、リーダーシップ論としては完璧だろう。

だが、当然このような一般化をしてしまえば、モウリーニョを語る理由はほとんどなくなる。他の誰であっても良いことになってしまうからである。 この本の面白さは、そうした平凡な一般化を極力さけ、モウリーニョにとって新天地となったイタリアにおいて、いかに彼が考え、学び、あがき、そうして新しい一歩を築いたのかというプロセスにある。

もう一つ、本書では、サッカーが高度に論理化され、体系化された一つの理論を有しているということに気づかされる。いわゆるシステムと呼ばれる布陣を中心にして、自チームの力を最大化するシステム、敵チームを封じ込めるシステムが求められる。だがシステムはあくまで勝利のための一つの戦術であり、より重要なビジョンに向けて階層化される。これにさらに、上司や部下とのつきあい方、長期的な人材育成プログラムなどが組み合わされていく。直観だけでサッカーをすることはもちろん可能だが、それだけでは駄目なのだろう。この点は多分経営も同じである。