ラベル

2012年5月14日月曜日

新しい世界史へ-地球市民のための構想


羽田正『新しい世界史へ――地球市民のための構想 (岩波新書)』、2011

現在の日本の高校では、学習指導要領により世界史は必履修科目となっている。だから、高校生全員が世界史を学んでいることになる。しかし、世界史が他の社会科目とはかなり異なる面があることは、普通余り意識されていない。世界史は、1951年の学習指導要領から高校教育に持ちこまれた。大学には、東洋史や西洋史はあっても、世界史専攻はそもそもない。だからこの本で指摘されているように、「大学で世界史把握の方法を教えられていない新任の高校教師は、どのように世界史を教えるかを自分自身で試行錯誤的に試してみるより他に方法がないのである。」

さて、この本の著者、羽田正は、イスラーム世界の研究者で、東京大学東洋文化研究所所長である。彼は最近、初対面の人に自己紹介する時に、専門の研究分野は世界史だと言うそうだ。しかも、「場所や時代に関係なく、世界史全体をどう描くかということを研究しています」と付け加えると、相手が戸惑い、しばしば話が途切れてしまうと書いている。今や、世界史の大筋と描き方は皆が既に決まったイメージを持っており、一方で歴史研究者は地域と時代を限って研究するものとみられているからだ。

この本のメッセージは、「現在私たちが学び、知っている世界史は、時代に合わなくなっている。現代にふさわしい新しい世界史を構想しなければならない」というものである。羽田は、まず現在の世界史という科目が、戦後の日本でどのように形成されたのかを辿っている。次いで、現在の世界史の問題点を次の三点にまとめている。

①現行の世界史は、日本人の世界史である。
②現行の世界史は、自と他の区別や違いを強調する。
③現行の世界史は、ヨーロッパ中心史観から自由ではない。

これらの問題点を踏まえた新たな世界史の構想を、彼は試案として提示している。そこで提案されているのは、三つの方法である。

①世界の見取り図を描く。
②時系列史こだわらない。
③横につなぐ歴史を意識する。

多分、現行の世界史とは、随分異なるものとなりそうだ。高校生全員が学ぶ世界史も、今や高校生に余り人気が余りないように見える。よく言われるのは、覚えることが多すぎる、という点だ。しかし実際はこの本が言う通り、時代に合わなくなっているが故に、特に若者に理解しにくくなっている、ということではないか。