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2012年5月16日水曜日

津波災害-減災社会を築く


河田惠昭『津波災害-減災社会を築く』岩波新書、2010

津波の恐ろしさは、今や日本では誰でも知っている。2011年3月11日、地震の後、大津波が三陸などの人々を襲う信じられないような光景は、多くの人が映像で繰り返し目にした。
この本は、あの東日本大震災の大津波が起きる少し前、2010年12月に刊行された。しかし、大津波の前にこの本を手にした人は少なかったのではないか。ちなみに、私がこの本を入手したのは、大津波から2週間くらい後のことだ。本に付けられた帯には「必ず、来る」と大きく書かれていて、書店の店頭で見掛けた時、あたかも予言の書のように見えた。

著者は、河田惠昭。防災・減災を専門とし、現在、関西大学社会安全学部長・教授である。まえがきには、本を出版するきっかけとなった津波のことが書かれている。2010年2月27日に起きた、チリ沖地震津波だ。このときの津波は、太平洋を越えて、日本にも翌日押し寄せた。日本では、168万人に達する住民に避難指示・避難勧告が出されたが、96%の人は避難しなかったという。その時には、幸い人的被害はなかったようだ。しかし、住民の避難率の余りの低さに、この本の著者は危機感を抱く。「沿岸の住民がすぐに避難しなければ、近い将来確実に起こると予想されている、東海・東南海・南海地震津波や三陸津波の来襲に際して、万を超える犠牲者が発生しかねない・・」。そう書かれた僅か数ヶ月語に、三陸中心にまさにその通りの被害がもたらされたことになる。

当然、もう大津波が起きてしまったから、この本は無用だということにはならないだろう。大津波の直前に、著者はこう書いている。なぜ津波が侮られるのか、それは津波について知識不足、そして何より恐ろしさを知らないから。今や多くの人は恐ろしさは知っているが、知識不足は変わらないのではないか。例えば、こんなことが書かれている。津波は単なる高い波ではないし、何度でも繰り返し押し寄せるし、4メートルの津波に対して5メートルの堤防があるから大丈夫とは言えないし、伝承がないから歴史的に大丈夫とも言えない、などなど。そして、東京湾や各地で大津波が押し寄せた場合を想定して、行政や地域、教育など様々なレベルでの対策を提言している。

この今、既に起きてしまった大津波被害からの復興と当時に、次の大津波災害の被害を減少させるための本気の対応が、個々人の備えを始め必要なことは確かだ。