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2012年5月18日金曜日

大地動乱の時代


石橋克彦『大地動乱の時代-地震学者は警告する』岩波新書、1994

日本には、毎年台風が来る。台風は、数日前から予告されていて、ある時とうとう日本に到達、そして来たなと思うと数時間後にはよそに行き、翌日には海の彼方に消えている。怖いのは、ほんのひとときだ。一方、地震は突然来る。予測できない点で怖いが、しかし、生死に関わるような大地震は滅多に来ない。普通たいていの人は、地震に人生を左右されるなどということなしに、一生を送ることが出来る。多分、1995年1月17日の神戸市を中心とする阪神大震災まで、多くの人はそう思っていたのではないか。(私自身も含めて。)

「大地動乱の時代」という、やや大仰なタイトルのこの本は、阪神大震災の直前、1994年7月に刊行された。翌年1995年初めの神戸の惨状を見た後では、このタイトルも、必ずしも大げさではなくなったのではないか。まして、2011年3月11日の東日本大震災を経た今となっては、まさにこのタイトル通りであって、特に問題があるとは思えない。著者の石橋克彦は、現在は神戸大学名誉教授。しかし、1995年刊のこの本が主に焦点を合わせているのは、実は神戸ではなくて首都圏・東海地方である。

「幕末にはじまった首都圏の大地震活動は、関東大震災をもって終わり、その後東京圏は世界有数の超過密都市に変貌した。しかし、まもなく再び大地動乱の時代を迎えることは確実である。」とこの本では主張される。主張の根拠として、石橋は地震の規則性に注目し、そのメカニズムを丁寧に説明している。説明の前提は、日本列島は四つのプレートが集中的にせめぎあっていて、そのために世界有数の地震活動地帯となっているというお話だ。2011年3月11日の東日本大震災の後には、この理論をあちこちで散々聞かされることになった。

「大地動乱の時代」というタイトルは、日本では今や誰にも異論はないのではないか。2011年3月11日以降、東日本太平洋側では無数の余震が相次いでいて、まさに日本は地震列島だと日々思い知らされている。ところが、石橋がこの本で警告した、首都圏・東海地方の大地震は、現時点ではまだ起きていないのである。現在続いている地震はあくまで別の大地震の余震であり、本番はまだこれからということになる。

実は、阪神大震災まで50年近く、日本では1000人規模の犠牲者が出る大地震はなかった。だから、20年近く前までは、台風の方が地震より怖かったのだ。しかし、今ではそれも多分エピソードでしかないだろう。現在、日本では大地動乱は前提であって、個人も家族も企業も公的セクターも、すべての話は近く起きる大地震を踏まえたものでなくてはならない、ということではないか。石橋は、1997年には「原発震災」という言葉で、地震と原発の関連を警告している。少なくともここ数十年は、日本において大地動乱を踏まえない議論は、あらゆるレベル、セクターにおいて不毛であると思える。