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2012年5月7日月曜日

インタンジブル・アセット


E.ブリュニョルフソン著 CSK訳『インタンジブル・アセット』ダイヤモンド社、2004

 90年代初頭によく知られたITパラドクス。パソコンに代表されるITの普及に伴って、多くの企業はきっと生産性が上がるはずだと考えていたわけですが、数々のマクロデータは、その期待を裏切り続けてきたわけです。ITにお金をかけているのに、成果が一向に上がらない、これがITパラドクスですね。

とはいえ、90年代中ごろに入ると、だんだんITパラドクスが解消してくる、というよう話が出てきます。この本もまた、そうした流れの本だと思います。とはいえ、この本がなかなか秀逸なのは、ITパラドクスの問題を、単なる時間差の問題として捉えるのではなく、ITの効果がでるためには、実はもっと別の場所への投資も必要になるということを示した点にあります。それが、インタンジブル・アセット、つまり見えない資産というわけです。

まあ具体的には単純です。ITをただ導入しても成果がでないだろうことはほとんど自明なわけで、実際には、それを使う人のスキルや、あるいは組織のあり方自体が変わらないといけない。だから、こうした側面にも投資がなされなければ、ITの効果はちゃんとでてこない。この本では、こうしたインタンジブル・アセットが変数として加えられることによって、生産性が、それも単純な生産性ではなくて、顧客価値まで含めた生産性!があがるとされています。

IT、情報化、あるいはインターネット、このあたりをどう考えるのかというのはなかなか難しいことで、でもちょっと考えておく必要のあることだと思います。もう少し抽象的にいえば、技術と社会の関係をどう捉えるのか。単に一方向でもなく、相互作用でもなく、もう少し時間軸を考慮できる枠組みをどう用意するか、あるいは、もっと別の選択肢があるのか、このあたりを考えるきっかけになります。
(初掲載2005.08.01)