ラベル

2012年5月15日火曜日

松下幸之助に学ぶ経営学


加護野忠男『松下幸之助に学ぶ経営学 (日経プレミアシリーズ)』2011

これまで日本の経済を牽引してきたはずの家電産業は、ずいぶんと苦境に追いやられているように見える。先に見たソニーに限らず、総崩れという印象さえある。あれほど優れた仕組みを構築し、世界を席巻したにもかかわらず、どうしてなのだろうか。2012年に生きる我々が知りたいのはここである。

その意味では、本書はあくまで松下幸之助を中心にして学ぶ経営学である。現状を分析するわけではない。温故知新、矛盾とうまく向き合い、時代の流れにうまく適応してきたという松下幸之助は魅力的だし、利益の追求が企業の目的ではないという主張もよくわかる。こうした創業時代の思いが失われていることが、現状を作り出している原因なのだともいえる。

考えてみれば、リーダーシップとは何なのだろうか。松下幸之助が優れていたことはきっと間違いないが、だからといって、その後の組織が未来永劫安泰というわけではないし、本書でも指摘される通り、時代が変われば、パフォーマンスも変わっていたかもしれない。リーダーシップの分析は、リーダーそのものというよりは、彼等が生きた文脈を特定し直すという作業のようにもみえる。

一方で、リーダーそのものを繰り返し問うことにも意味がある。特に過去のリーダーは、象徴であり、神話である。彼等についての語りが繰り返し行われることで、組織は求心力を保つことができる。類似した書籍がこのところ多くでている気もする。本田宗一郎や中内功、こうしたリーダーを語ることは、企業のみならず、日本の求心力を取り戻そうという活動の一つなのかもしれない。