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2012年5月6日日曜日

不確実性のマネジメント


カール・ワイク、キャスリーン・M・サトクリフ著 西村行功訳『不確実性のマネジメント』ダイヤモンド社、2002.

少し前の本ではありますが、ホットな話題でもあります。不確実性のマネジメント、あるいは、高信頼性組織(HRO)はいかにして可能か、といった話です。なかなか興味のあるテーマであることは間違いありません。

この本が特徴的なのは、こうした問題を取り扱うにあたり、いわゆる一般の企業ではなく、原子力発電所や航空管制システムなど、どんな微細な問題も致命的になりうるようなところを取り上げている点です。こういったところでは、しかし意外にも、高信頼性組織になっている。さて、それはなぜか?そして、それは一般企業にも持ち込めるか、といったあたりが一つのトピックになるわけです。

ひとまずの答えは簡単です。高信頼性組織では、成功体験におごることなく、絶えず失敗から学ぶ体制、さらにいえば文化を作り上げている。だから、大きな失敗が引き起こされる前に、その芽が小さいうちにうまく対処できる。この本では、その特徴を大きく5つのプロセスとしてまとめてありますから、まあそのあたりはわかりやすい。 

とはいえ、なんといってもそこはワイクですから、もう少し示唆深い話も書いてあります。このあたりは、「訳者まえがき」でうまくまとめられている気もしますが、それは予期(本文中では予想)の問題です。というのも、不測の事態が起こるということは、予期が前提となって起こるからです。予期するから、予期しない事態が生じる。予期しなければ、そもそも不測の事態はありえない。不測の事態とは、予期していたこと以外が起こることと、予期していたことが起きなかった場合を指す事態なわけです。

もちろんこれは、だから予期せず、いきあたりばったりで行けという話ではありません。ここは、ワイクの逸話で有名な山で遭難した人々の話と同じです(ティース編著『競争への挑戦』)。確かに、間違った地図であっても下山することができる。だから、地図(=すなわち予期だろう)は完璧である必要はまったくない。しかしながら、何らかの地図は依然として必要なわけです。予期が完璧である必要はない、しかし、なんらかの予期は必要なわけです。問題は、この時の予期がいかなるものでありえるのかということですが、それは予防ではなく治療であり、備えるということなのでしょう。
(初掲載2005.05.18)

追記
改めて重要な問題を提起していたものだと思う。原子力の話も書かれていた。